水草の鉄分供給と鉄液肥の使い方
水草への施肥で必ず話題に上がるのが、鉄分です。
“アイアン”とか“鉄液肥”なんて呼ばれて、鉄分単体の液肥として添加したりします。
「カリウムと鉄は欠乏しやすいから添加しよう」なんて聞いた事があるでしょう。
でも正直私は、鉄液をそこまで重要視してなかったりします。
頻繁に使うことはありませんし、ぶっちゃけ立ち上げから全く使ってない水草水槽も綺麗に育っています。
そこでこのページでは、鉄液の必要性や使い方について深掘りしていきます。
※ちなみにこれからご紹介する内容は、水草の基本的な必須栄養素に関してある程度理解している前提で書いています。水草の栄養や肥料の総合的なことが知りたい方は、以下のページもご覧ください。
⇒「水草水槽に肥料を与えるやり方と考え方」こちら
鉄分は水草の必須微量元素
まず一つ言えることは、鉄分は水草にとって必須栄養素であり、微量元素の一つに数えられています。
水草が育つために絶対必要な栄養素ってわけです。
私も鉄分の供給が不要と言うわけじゃ全然ありません。
とはいえ「じゃあ鉄液肥は絶対必要じゃん!」ってなるのは早計です。だって鉄分は、ソイルや各種栄養素を配合した総合肥料にしっかり含有してるからです。実は水道水にだって含まれてる。
だから、鉄液をさらに添加しなくても事足りる状況が多いんです。
なのにここまで最重要な液肥として使われているのが、ちょっと不思議でならないんですね。一般的に言われてる鉄液肥の施肥量は過剰だなって感じます。
鉄分供給の基準は?
では、水草に対する鉄分供給の基準はどのくらいか、ご存知ですか?
ドイツのアクアリウムメーカーsera(セラ)社が公表する理想的な鉄分濃度は0.5mg/Lと書かれています。
そしてそれ以上は生体に有害と説明しています。ちなみに以前は0.5〜1.0mg/Lが最適濃度とされてました。
確かにヨーロッパの方では水硬度の高い水道水が当たり前の地域が多いですから、硬度の指標であるカルシウムやマグネシウムとのミネラル拮抗を抑えるため、あえて鉄分濃度を上げる必要もあるでしょう。
(ミネラル拮抗とは、あるミネラルの濃度が高いと他の必須ミネラルの吸収を阻害すること)
また、ソイルが登場する前は底床が鉄分を保肥する概念もなかったでしょうから、鉄液を添加する方法が考えられたのもあると思います。
だからセラジャパンでは日本の軟水事情やソイルの普及から、0.5mg/Lと以前より下げて表示してるのかもしれません。
ですが私の水槽で実際に測定してみても、たったの0.1mg/Lにも満たない状態がほとんど。でも鉄欠乏の症状は出ませんし、水草達も綺麗に育っています。
(30cmキューブ水槽の鉄分濃度を計測。0.1mg/l未満。このページ冒頭写真の水草水槽も。)
ちなみに、同じドイツメーカーのDupla(デュプラ)社が公表する推奨鉄分濃度は、0.05〜0.1mg/L。それ以上は生体に有害ですよと。
これもう、セラ社の値の5分の1〜10分の1です。
同じドイツのアクアリウムメーカーでも、ここまで言う事が違うんですね。
どちらかといえばデュプラ社の提唱する鉄分濃度の基準の方がやはり納得できますけど、実は水草アクアリウムにおいて鉄分欠乏を解明したのも、デュプラ社共同経営者だったカスパー・ホルスト氏(1929 – 2014)だそうです。
その当時はまだ鉄液ではなく、総合肥料という形での供給です。
また、話は逸れますが水草へのCO2供給を考案したのも、この人。ホント、凄い人です。
二価鉄とか三価鉄で悩み過ぎないこと
鉄液肥では、二価鉄(Fe2+)が良いってよく聞くと思います。というか、現在の鉄液はどれも二価鉄主体なんじゃないかと思いますけども。
これは植物が基本的に鉄分を二価鉄の状態で吸収するってところから来てます。
でもじゃあ三価鉄(Fe3+)が全く意味ないかっていうと、そんなことはありません。三価鉄って酸化鉄(Ⅲ)とか水酸化鉄(Ⅲ)とか赤褐色した沈殿物なんかですね。
水草によって根から酸(根酸)を出して三価鉄をキレート化しながら吸収したりしますし、底床内が小慣れてくれば鉄バクテリアによって三価鉄を二価鉄に換えてくれたりもするんです。
しかも二価鉄イオンはpH4〜5以上では不安定で、徐々に三価鉄イオンに変化しますから、一般的な水槽環境では市販の鉄液でもずっと二価鉄イオンの状態で居てくれないわけですし。
だから「二価の鉄液じゃなきゃダメ!」とか、固執しなくても大丈夫って事です。
昔のアクアリストが水草の鉄分供給に鉄釘を底床に埋めてたのも、全く無意味じゃないんですね。
ただ、鉄サビ具合とかクロムとかの有害性は別としてですけど。
鉄欠乏の症状
じゃあ鉄欠乏の症状はというと、水草種によって違いはありますが、水草の頂芽が白化・黄化したり萎縮して成長が鈍るのが一般的です。
(古い下葉じゃないですよ、頂芽(新芽)です。)
ただこの欠乏症状、微量元素を含む総合肥料を施していれば基本見ることはありません。そしてさらにソイル底床なら、通常まず無い。
だってどちらも鉄分を含みますから。
(30キューブのキューバパールグラス(左)とニューラージパールグラス(右)。総合固形肥と炭酸カリウム液肥で調整。)
ソイル以外の底砂を使っていて、総合肥も使わず、数週間も放っておけば欠乏症状が見れるかもしれません。けれどその場合、まずカリウムや窒素・リンの枯渇が先でしょうね。
もし総合固形肥を埋めてても鉄欠乏が起こりやすいという方、カリウム液肥を過剰添加してませんか?
カリウム過剰になると水草の鉄分消費を増やすので、鉄欠乏が出やすくなります。
カリウム液肥ばかりに頼ってませんか?
水草へのカリウム供給を液肥にばかり頼ってる方、とても多いようです。
カリウムは特に施肥の必要な栄養ですが、液肥ばかりでなく底床からのカリウム供給も意識しましょう。つまりソイル栄養や固形肥料ですね。
液肥は即効性があって使い勝手も良いのですけど、どうしても添加時はカリウム過剰になりやすくなります。
そりゃそうですね、1日分ならまだしも数日分のカリウムを一気にピュッと添加したりしますから。
総合固形肥料のススメ
ご覧いただいている方の中には、「総合肥は使わない」なんて方もいらっしゃるでしょう。特に液肥中心に施肥してる方。
でも底床に根を張る水草を育てる場合、根元に総合固形肥料を埋め込むのは、とても重要です。
まず微量元素の供給。
微量元素は鉄だけでなくカルシウムやマグネシウム、硫黄、マンガン、亜鉛などなど、数ある必須元素のこと。必要量はそれぞれ微々たる量だとしても、一つでも吸収できなければ、水草は絶対育ちません。
液肥ばかりだと、微量元素の施肥をけっこう忘れがちに。
次に底床環境の悪化を防ぐ。
ソイル以外の“栄養を持たない底砂”を使う場合は、液肥にしろ固形肥にしろ総合肥料を与えないと水草は綺麗に育ちませんから、「肥料分入れてないけど育ってる」という場合は間違いなくソイル底床しかあり得ません。
そして、ソイル内に根を張る水草はソイルから多くの栄養を吸収しますけど、高栄養ソイルだって徐々に栄養が枯渇しますから、根から吸収出来なくなればガクンと成長は悪くなります。
有茎草のロタラやルドウィジアなんかは、地中が枯渇すると表に見える茎の節から根を出し始めて、水中の栄養を必死に得ようとするくらいです。
また、ソイル内のバクテリアは水槽環境に大きく影響しますが、そんなバクテリアにとっても総合肥の栄養がエサになります。
だから底床栄養が枯れてくると、酷い油膜が出たり水質が悪化して熱帯魚やエビにも影響が出ます。
底床に総合固形肥を埋めるのは、水草を元気に育てる上で大きなポイントですし、水槽環境を整えてくれるバクテリアにとっても効果的なんですね。
ただし唯一、田砂や化粧砂などサンド系底床では、固形肥を埋めると目詰まりを起こしやすく、有害な硫化水素の発生を促してしまうのでおすすめ出来ません。
鉄分は入れ過ぎても悪影響が出づらい?
鉄液がここまで広まった背景には、鉄分添加を増やしてもすぐ悪影響が出ないこともあるのかもしれません。
いや鉄分濃度が上がり過ぎれば生体に有毒ですけど、それはさらに過剰に添加した場合ですね。
先に書いたように私の水槽なんかseraの「Feテスト」でも数値が計測されないレベルで十分事足りてるわけですが、例えばこれを0.5mg/L程度まで添加したとしても、すぐに生体が死んでしまうことも水草が枯れてしまう事もないんだろうなって。いやそこまで添加したことはないんですけど。
ちなみに余剰の鉄分は水槽内でリン酸イオンと結合して、そのままでは水草が利用できないリン酸鉄となって底床内に蓄積します。
リン酸鉄は底床中の根を傷めたり全く良いものではありません。だけど、早急に水草を枯らしてしまうほど強い影響力もないんです。
もちろんどんどん蓄積してくわけで、長期的にはリセット時期を早めてしまいますけれども。
さらに、水槽内のリン酸を減らす(変化させる)わけですから、リン酸過剰な水槽なら短期的に見て、黒髭コケやサンゴ状コケなど各種コケの繁殖を一時的に抑えてくれる場合だってあるんです。
つまり、「鉄液入れたらコケが減った!やった!」なんてね。でもそれ、リン酸鉄が蓄積したってことです。
過剰な鉄分はミネラル拮抗してカリウムやカルシウム、マグネシウムの吸収も阻害しますが、水換えを頻繁に行えばカルシウムやマグネシウムは補給されるし、昨今のカリウム液肥過剰な傾向も、鉄液添加を後押しする原因の一つになってるのかもしれません。
豊富な鉄分は黒髭コケや藍藻を呼ぶ
鉄液は一時的にコケを抑制する場合もあるって書きましたが、長期的に見たら豊富な鉄分はやっぱり黒髭コケや藍藻(らんそう)を蔓延させる大きな原因になります。
まず、鉄分は代謝や呼吸に関わる酵素栄養として、植物であるコケ達にとっても大きな役割があります。つまり絶対必要。
だから浮遊するリンや窒素が多少多くても、鉄分が浮遊してなければコケは上手く成長できないんです。根を張る水草は、底床から得られるから良いのですけど。
黒髭コケなんかはその影響が顕著で、リンが漂う飼育水に鉄液肥を入れるとワッと出てきます。
また底床に蓄積してくリン酸鉄って、要はリンが溜まっています。そしてリン酸鉄は水草達も基本利用できない沈殿物だから、どんどん増えていく。
(いや根酸出す種は少しずつは使えるのだけど)
でも藍藻はこのリン酸鉄も使えちゃうんです。自ら有機酸を出してキレート化させる(使えるようにする)力を持ってるんですね。
コケが少ない水槽を作るには、飼育水の鉄イオン濃度が高くても良くないし、底床にリン酸鉄が蓄積しても良くないということです。
まあでもこれ、鉄分を水草が使う量に合わせて供給するっていう当たり前のことをするだけであって、ただコケや藍藻に悩む方達の多くが過剰な鉄分を入れてるって話にも繋がるんですよね。
ちなみにこの写真の水槽では私がちょっと失敗しまして、鉄分濃度が0.3mg/l程度まで上がっていました。
ある園芸用肥料を試しに使ってみてたら、思ったより鉄分割合が高かったっていう。。
さらにこの水槽は足し水のみで水換えしてないですから、使われない鉄分がどんどん増えちゃって、草体の見た目から「最近リンが足りてないな〜」なんて思ったら、鉄分が悪さしてたんですね。
それでいて吸水スポンジには、ポツポツと黒髭コケが顔を出す。
園芸用は水草の欲する栄養割合とは全然違うので、皆さんも園芸用肥料を流用する際は、十分慎重に行うのがおすすめです(爆)基本、リンやカルシウムが高いですからね。
(あ、殺虫成分とか入ってる物もあるので、これは本当に注意。魚やエビに猛毒ですから。)
鉄液が最適なタイミングは?
それでは鉄液が最適なタイミングってどんな時でしょう。
私はこれまで何度も書いてますけど、水草を綺麗に育てるには底床栄養がとても大事です。
だから固形肥料で鉄分も底床に供給してるわけですね。
そのため「これは鉄欠乏だ!」って症状を、ほぼ見れません。で、たまたま見れたのがこれ。
ハイグロフィラ・ピンナティフィダの頂芽の白化(黄化)です。
これなんでなったかというと、ピンナは成長が旺盛なのでこの根元には一度も固形肥料を埋めてなかったこと、立ち上げから2年以上でソイルの栄養は枯渇してること、そしてさらにカリウム添加がちょっと強かったかなというタイミングで発現しました。
鉄欠乏ってこのくらいの感覚です。
じゃあ、さらに敢えて鉄液を少し入れた方が良いなって時は、活着水草が豊富な水槽や、背丈の伸びた後景草水草が豊富に覆い茂るような水槽環境。
鉄分栄養は水草体内での移動があまり出来ないので、上記に挙げた水草には、飼育水に少しは溶け込んで浮遊してる状態がやはり良いんですね。
だからと言って、鉄分濃度が絶対0.1mg/L以上なきゃけないって事じゃなくて本当、Feテストでもぎりぎり計測出来るくらいで充分な程度です。
それはどのくらいの量を添加するかって言われると、鉄液商品によって濃度も違うし、水草量や照明・CO2など環境によっても変わるので困ってしまうのですけど、毎日水草を観察して頂芽が微妙に白化・黄化してきたら、商品の規定量の4分の1とかから少しずつ添加して、頂芽が治ったらストップして様子を見ます。
そしてまた頂芽に異変が出てきたら、入れた量とその期間で調整していく感じです。
まあ、鉄欠乏の症状がちょっとでも見えたらですけど。
ちなみにその他の微量元素がしっかり存在してれば、頂芽の症状には鉄欠乏かカルシウム欠乏くらいしかありません。
リンや窒素、カリウム、マグネシウム等が欠乏する時はまず下葉から症状が出ますから、水換えを充分にしてればカルシウム不足はそうそうありませんし、後は鉄不足ってなります。
ただし、カリウム液肥をこれでもかって過剰に入れちゃうと、正常なら出ない鉄欠乏が出ちゃったりしますからご注意を。バランスが大切です。
また、鉄液だと思っててもその他ミネラルを含有してる液肥商品もありますから、そうなると反応が複雑になってしまいます。何が原因か予測しづらいって意味で。
やはり定番の鉄液がおすすめです。
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最近私は「Feエナジー」しか常備してませんね。
目薬サイズのミニボトルなのに、高濃度だから水量10〜20Lに1滴からでも効果が出るくらいで、長持ちします。
ちなみに先のピンナティフィダは45cmワイド水槽(約40L)ですが、Feエナジーを1日1〜2滴の2日で改善しています。
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こちらは「メネデール」。
どちらも経験ありますが、まあ定番です。
あと、写真で使ってたセラ「Feテスト」。
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水槽の鉄分濃度がどのくらいか、一度測ってみると良いかもしれません。
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