マグネシウム・カルシウム栄養は水草育成の妙薬ミネラル
今回は水草育成の妙薬ともいうべき栄養素、カルシウムミネラル(Ca)とマグネシウムミネラル(Mg)の添加について書いてみます。
通常、水草の肥料というと、窒素・リン・カリウムの3大栄養素をメインに、硫黄、鉄、マンガン、亜鉛など細かな栄養素を一括りにした微量元素で語られます。
このカルシウム・マグネシウムも一般的に微量元素に含まれ、個別に注目される事の少ないミネラル栄養ですが、水草の成長に大きな役割を持ち、実は微量元素の中では要求量が格段に多いミネラルです。
様々な水草を育てた経験がある方であれば、カルシウム・マグネシウムの重要性に気づいた時、多くの水草育成が格段に容易になるのを体感したんじゃないかと思います。
ここでは自作肥として、苦土石灰溶液の作り方や使用方法について書いています。
マグネシウムが水草に与える影響は?
苦土石灰液の前にまず、マグネシウムが水草に与える影響についてです。
マグネシウム欠乏の一般的な症状は、下葉(古葉)から影響が出ます。
・下葉が葉脈の緑色を残しつつ黄化していく
マグネシウムは植物体内を移動できるミネラルなので、足りなくなると古い葉から成長の活発な新葉や頂芽にマグネシウムを移動させるんですね。
葉緑素の基本原料
マグネシウムは葉緑素の基本成分です。
葉緑素は皆さんご存知のように光合成を行う主要部分であり、葉緑体の光合成で生成された糖類養分によって植物は成長します。
また、水草が鮮やかな緑色に見えるのも葉緑素が充分に作られるからであり、原料のマグネシウムが枯渇すると葉緑素の数は減少して緑色が薄れ、下葉から黄ばんだ色味になっていきます。
数が減れば当然、充分な光合成もできません。
リン酸の吸収・消費に必要不可欠
3大栄養素の一つであるリン酸は、全ての細胞のDNAやRNA、細胞膜などを構成する栄養素で、ランナーによる増殖や水草の成長に欠かせません。
そんなリン酸を吸収したり体内を運搬するためにマグネシウムは必要不可欠なミネラルです。
マグネシウムが足りないとリンを十分に使えず、水草は衰えてリン酸欠乏に似た成長不全の症状が現れます。
アミノ酸を合成する窒素同化に関与
3大栄養素の一つである窒素は、光合成によってアミノ酸(タンパク質)に合成され、成長養分として使われます。この窒素同化(アミノ酸合成)に関与するグルタミン酸合成酵素の働きにもマグネシウムがなくてはなりません。
養分が作られなければ、水草の成長が鈍化するのは当然です。
この様にマグネシウムは、水草の成長に大きく関係しています。
もちろん、植物の成長には3大栄養素から微量元素まで全てが揃わなければ始まらないのですけど、マグネシウムの必要量は微量元素と言えないくらいの割合なのですね。
マグネシウムは液肥や固形肥で賄えないの?
ここで皆さん考えるのが「マグネシウムは液肥や固形肥の微量元素で賄えないのか」という事でしょう。
一般的な水草水槽では、総合肥に含まれるマグネシウムと水道水に含まれるマグネシウムで賄います。
ちなみにカルシウムは、水道水からの供給が基本です。水草用肥料にはほぼ含まれていません。
マグネシウムやカルシウムは飼育水pHや硬度に強く影響するミネラルだけに、水槽にあり過ぎると問題になるため、肥料ではカルシウム・マグネシウム量が加減されているんですね。
ですが水道水のカルシウム・マグネシウム硬度は地域の違いによってかなり差がありますから、極めて軟水の地域は水換え頻度が少ないとマグネシウム欠乏が出やすくなります。
ちなみに大抵カルシウム欠乏より先に、マグネシウム欠乏が出てきます。
また、水草それぞれにマグネシウム要求量の違いがあります。
どちらかというと陰性水草の多くは、液肥や総合固形肥と水道水でマグネシウムもそれなりに賄えますが、陽性水草には突出してマグネシウムを欲する種があります。その多くは容姿が小さく成長の早い前景草。
例えばキューバパールグラスやニューラージパールグラスのように、若干硬度高めの水質を好むと言われている種。水硬度に関係するマグネシウムの影響が大きいんですね。
他にも、成長が早く“肥料喰い”と言われるようなリン酸を多く欲する種、例えばグロッソ・スティグマやエキノドルス・テネルスなども、マグネシウムが充分だと葉色が鮮やかな緑になりグングン育ちます。
そしてこういった消費量の多い水草を混植している水槽の場合、マグネシウムの枯渇症状が出やすくなります。
「じゃあその分、液肥や固形肥を増やせばいいじゃん」と思うわけですが、マグネシウムのために他の足りてる栄養素も増やせば、それこそ富栄養からコケ被害でしょう。
水草の施肥は基本、足りない栄養素を個々に必要なだけ与える考え方が重要です。そして綺麗に育つ必要最低限の栄養素だけで管理できれば、手入れの少ない美しい水景に近づきますから。
つまり、あとちょっとマグネシウムを添加すれば栄養バランスが安定するのであれば苦土石灰溶液がおすすめ、ということです。
水換えで水草の調子が上がるのはマグネシウムかも
水換えすると水草の調子が上がるなんて経験をされる方も意外と多いんじゃないかと思います。水換え頻度が少なく肥料を控えめに管理する水槽に多いでしょう。
これ、マグネシウムが影響してる可能性もあります。
水の硬度はマグネシウムとカルシウムの含有量で決まりますが、つまり水換えでマグネシウム補給(カルシウムも)したためですね。
水換えではごく少量ながらその他微量元素も補給できるので、微量元素の何かが枯渇しているパターンももちろんあり、一概にマグネシウムと断定できません。
ただ、多少なり総合肥を添加してる水槽なら、他の微量元素が不足する事はあまり起こりません。総合肥料って、カリウム等メイン成分だけじゃなく微量元素も含まれるから“総合”っていうんですけど。
もしマグネシウム以外に水換えで調子が良くなるとすれば、CO2かカルシウム。
水換えで二酸化炭素が少し補給できるので、CO2添加のない水槽だと調子が良くなる可能性があります。
カルシウムも、水換えが少なく真新しい吸着系ソイル水槽だと軟水化し過ぎて、寂しくなることがあります。
カルシウムは植物の細胞膜や細胞壁を作り丈夫にしたり、根の成長を促進する栄養素で、枯渇するとロタラやルドヴィジア類など有茎草が根元辺りから溶けてしまう症状も多いです。
今回の苦土石灰溶液にはカルシウムも含まれるので大丈夫。
西洋アクアではマグネシウム欠乏が少ない?
ちなみに西洋のアクアリウムではマグネシウム欠乏が少ないんじゃないかと推測します。あちらの水、かなり硬水ですから。
日本の水草水槽だと「ちょっとマグネシウム入れると良いな」って環境をよく見掛けますけども。
苦土石灰液でこれだけ水草が育てやすくなるのも、日本の水道水が軟水だからだろうなって思います。
それを強く感じるのが、水草水槽の定番固形肥、ドイツのテトラ社「イニシャルスティック」を使った時。
このイニシャルスティックのミネラルバランス、どうもマグネシウム比率が少なく感じるんです。
だから肥料喰いな陽性水草には、イニシャルスティックだけじゃちょっと物足りなくなることも多いんですよね。イニシャルに窒素やリンは含まれませんから、もちろんそれらが十分にある環境で、です。
多分あちらの硬水だと、イニシャルスティックのミネラルバランスで丁度良いんだろうなって思うわけです。
苦土石灰液の作り方
前置きが長くなりましたが、苦土石灰液の作り方です。
といっても作り方は非常に簡単。
園芸用の「粒状苦土石灰」と空の500mlペットボトルを用意します。
苦土石灰の配合割合
粒状苦土石灰を1g、水を500ml(ペットボトル一杯)、ペットボトルに入れてよく振り溶かすだけで完成です。
作り方と言うほどでもないですね。
ちなみに、粒を水に入れてすぐは欠片が大きいですけど、1時間ほど置くと細かい泥状になります。
苦土石灰液の使用方法
苦土石灰液の使用方法はいくつかありますが、作った苦土石灰液pHは約8.5〜9とかなりアルカリ性ですから、熱帯魚やエビが居る水槽ではpH変化によるダメージやストレスを受けないように気を付けます。
また、苦土石灰は時間が経つと沈殿するので、使う前は毎回必ずペットボトルをよく振ってから使います。上澄みでは効果が弱くなります。
換え水に混ぜる
水換え時の換え水に混ぜる使い方。
添加量は少ないので、飼育水を一度コップですくって混ぜ、フィルター流水に乗せてゆっくり注水しても良いでしょう。
ソイル底床に注入
水草に合わせてソイル底床に直接注入する方法。
添加量を飼育水で10〜20倍に薄めて、マグネシウム不足と思われる水草の根元深くに、注射器型シリンジ等で複数箇所に分けて少しずつ入れます。
化粧水ミニボトルやミストスプレーで添加
化粧水用ミニボトルやミストスプレーで水流に乗せて添加。
1プッシュ(1滴)0.1mlくらいが最適。
ダイソーなど100円ショップの化粧品コーナーに売ってるものでOKです。写真のはセリアで購入した約50mlミストスプレー。
毎回ミニボトルをよく振ってから使用します。
苦土石灰液の使用量と注意点
最も大事な点は、調子が良い水草には不要です。無駄に入れて良いことは全くありません。
それを踏まえた上で、苦土石灰液の使用量は状況に合わせてが正解ですが、目安として、初めは飼育水10リットルに対して0.1mlから始めましょう。
30cmキューブ水槽なら0.3ml未満、60cm規格水槽でも0.5ml程度ですから、かなり少なく感じますが、マグネシウム欠乏の水草には効果てき面です。たった一回添加しただけでも変化が感じられるでしょう。
水量に対する水草量や陽性水草の割合など、水槽状況によってどのくらい継続して添加するかも違います。
ちなみに、目安量を毎日添加し続けるような状況はまずありません。過剰添加になる。
苦土石灰の沈殿成分は緩効性ですから、緩く継続的に効きます。
要は、水草が欲する量(足りない量)を1回でまとめて入れるか、複数回に分けるかという考え方で、この目安量は“まとめて”の方です。
水槽の水草達がどのくらいマグネシウムを欲するか知るには、目安量を1回だけ添加して1〜2週間くらい観察してみるのがベスト。
一時的に改善して、また調子が落ち始めたその期間で、目安量を消費すると推測できます。
これは各水槽ごと違い、2週間かもしれませんし数日かもしれません。水草の消費具合が分かれば、ミストスプレーなり換え水に混ぜるなり加減が分かりますね。
もちろん水草が成長して増えればそれだけ必要量は増加しますし、活発に栄養を吸収すれば今度は他の栄養素不足で調子を落とすことだってありますから、ご自分で試行錯誤してみてください。
入れ過ぎは他のミネラル吸収を阻害する
苦土石灰液を入れたらグッと調子が上がったからといって、考えなしに過剰に入れてはいけません。
マグネシウムとカルシウムはカリウムや鉄分など他のミネラルと拮抗しますから、入れ過ぎると逆にカリウムや鉄分等の吸収を阻害したりと、違うミネラルの欠乏症状が現れます。
苦土石灰液で失敗するわけ
実はこの苦土石灰液、やはり昔からアクアリウムで挑戦する人が結構いたようですね。でも多くの方が失敗していた。。
これはもう添加し過ぎでしょう。確かに入れ過ぎで失敗しやすい。
なぜって、今回の苦土石灰液0.1mlに溶け込んでる成分量なんて極めて少ない塵レベルですから。500mlの水に1gしか溶かしてない、そのさらに5000分の1ですね。
それでも水草にとっては充分補給でき、窮地を救う量なんですけども。
(粒状苦土石灰1gを計量。キャップ重さは抜いてます)
1gってたったこれだけ。そんな苦土石灰粒を60cm水槽に5粒とか10粒とか入れれば、ミネラルバランスを崩壊させるのは明白ですね。ざっと計算しても目安量の50倍〜100倍以上。。
60水槽に粒状苦土石灰1粒でも呆れるほど多過ぎなわけです。
そのためにも適量を見定めることが大切です。
計量には100均の化粧品コーナーにある注射器型シリンジ(スポイト)があれば何かと便利です。
写真のミニ計量カップは、ジクラウォーターなどアクア用品を買った時に付いてきたもの。こういったものでもいいですから、ある程度正確に量れるものは必要です。
また、ミストスプレーは1プッシュ何mlかを一度調べると良いです。上記のミニ計量カップに吹き出せば、何プッシュで1mlになるか分かります。
写真のミストスプレーは10プッシュで約1mlでした。
参考リンク
粒状苦土石灰は、リンや窒素など不要な成分が混ざっていないものを選びます。裏面の成分表記で可溶性苦土15%(内く溶性苦土10%)程度のもの。
例えばこんなもの。
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粒状苦土石灰1kg 【ガーデニング肥料 園芸肥料 野菜の肥料 家庭菜園肥料】
(どれも成分比率の同じ苦土石灰)
くれぐれも消石灰(カルシウム分のみ)と間違えないように。苦土石灰です。
(“苦土”はマグネシウムの意味)
最近では100円ショップでも“苦土石灰”と書かれた商品がありますが、消石灰を使った物も流通してるので、近所で探すならホームセンターが良いです。
1kgって一生分くらいあるんですけど、それより少ない不要成分無添加のもの見当たらず。。まあ安いですし、観葉植物を育ててればそちらにも使えますね。
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(※アマゾンはほぼ同じ類似品)
コンパクトなデジタルスケール。
最近のは1g以下まで測れて精度も高いのに安いですね〜。蓋付きで誤動作もなく、おすすめ。
ミニ計量カップは、液肥やカルキ抜き剤などにも付いて来たりしますね。
100均のダイソーにある注射器型シリンジ(スポイト)は結構正確に測れます。化粧品コーナーにあります。
ミストスプレー(ミニ霧吹き)や化粧水ボトルも大抵の100円ショップにあると思います。これも化粧品コーナー。
水草にマグネシウム肥の効果
水草にマグネシウム肥を添加する方法や使い方について書いてみました。
ちなみにこの苦土石灰液、特にソイル水槽で効果を発揮します。
これ実には理由があって、水草はカルシウムとマグネシウムを比較的多く必要なこと、ソイルのミネラル吸着能力で軟水化されてしまうこと、さらにカリウム肥の割合が高くなるとミネラル拮抗してカルシウムやマグネシウムの吸収を阻害してしまうこと。
そうなんです。どこの情報でも「カリウムが枯渇しやすいので添加しましょう」って言うんですけど、カリウムを入れ過ぎてる水槽が結構多いんです。
確かにカリウムはミネラルの中でも一番要求量が多いのですけど、だからと言ってカリウムどんどん入れて良いわけじゃない。
ついでに言うと鉄分の過剰添加な水槽も多いですね、「鉄入れるといいですよ〜」って言葉、氾濫してますから。
もちろん苦土石灰液にしても同じことで、こればかり入れてても駄目。足りない分を補うバランスが大事です。
で、そんなバランスの崩れた水槽に使ってみると実感しますが、マグネシウムを与える事で水草の本当の色合いが分かるんですよね。
「この水草ってこんな色だったの?」みたいな。
例えば下の写真。
ウォーターフェザーの葉は黄色味がかり元気がない状態。ソイルは水草一番サンドなのでリンやカリウムは豊富なのですが、アフリカンチェーンソードの葉は細く成長も遅い。
水草に元気がないので栄養吸収も少なく、ソイルにコケが付き放題ですね。。
そこにマグネシウム肥(苦土石灰液)を添加すると・・
葉の緑色がここまで変わるんですね。アフリカンチェーンソードの葉は太く鮮やかな色に。
マグネシウムは葉緑素の主要成分であり、さらにリンの吸収を助けるため、生き生きと緑色が蘇る。
ソイルの緑ゴケを見ても分かるように、水草が調子を取り戻し栄養を消費し始めると、余剰の栄養が消費されてコケは減るんです。これは苦土石灰液が凄いんじゃなく、栄養のバランスです。
また、熱帯魚が泳ぐソイル水槽でモス類や活着水草がうまく育たない場合、カリウム総合肥を入れてもダメならマグネシウムが怪しいでしょう。
カリウム肥料以外でよく聞くミネラルと言えば鉄分かもしれませんけど、正直、鉄よりマグネシウムの方が水草は断然多く消費します。
“マグネシウムを語らずに水草を語ってる方はモグリ”ってくらい、ぜひ知っておきたいミネラルです。
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