水換えの要らない水槽の方法と真実
アクアリウムに興味を持ち、そして始めた方の誰もが一度は考えるのが「水換えの要らない水槽(無換水)」でしょう。
やっぱり水換え作業は手間ですし、手を掛けずに綺麗な水草水槽を維持できるならそれに越したことはありませんよね。
初めに答えを言うと、水換えしない淡水水槽は可能です。今まさに無換水水槽を維持してますから。インチキくさい商品とかではなく、ありふれた装備で。
そこでこのページでは、水換え不要な水草水槽の方法や理論、そして水換えしないことで起こりうる真実について、実際の経験を元にご紹介します。
ただしこのページに書くことはアクアリウム中級者から上級者向けの内容ですから、まだ始めたばかりの初心者アクアリストが簡単にとはいきません、あしからず。
「水換えは飼育水を綺麗にするんでしょ?」程度にしか知らない方には難しいでしょうから、まずこちらをご覧ください。
また、無換水を全面的に推奨するものでもありません。
とは言えこの理屈を日々の管理に応用すると、より簡単に水槽を管理できることは間違いありません。
ちなみに、人工器具を使わず人の手を加えないバランスドアクアリウムとは違います。ただ根本的な考え方は同じですから、突き詰めればバランスドアクアリウムにも繋がります。
暇つぶしがてら、ご覧いただければと思います。
水換え不要には栄養の循環サイクルが不可欠
まず、水換え不要の水槽を作るためには、栄養の循環サイクルを水槽内もしくはフィルター装備も含めてすべて把握する必要があります。
まあ無換水に興味を持つ方にとっては何度も見聞きする退屈な内容なんですけど、それでも重要な理屈なので、一応書かないと先に進みませんから。。
ただちょっと違う視点から解説してみます。
この写真の水槽、実は3ヶ月ほど水換えをしていません。なんてことはない水草水槽なんですけれども。
「3ヶ月なんて大したことない」と思うでしょうけど、このまま1年とか維持するのも同じです。やってる原理は一緒ですから。
水槽は30センチ規格水槽、生体はヤマトヌマエビが3匹だけ、外部フィルターに発酵式CO2添加という、在り来たりな水槽環境です。
水草はアフリカンチェーンソード、ブリクサショートリーフ、ウォーターフェザー、南米ウィローモス、ルドヴィジアsp.スーパーレッド、キューバパールグラス、フレイムモスなど。
いや、ヤマト3匹だけってあまり無いですか。。でもこれ別に人工餌を与える熱帯魚が入って居てもいいんですよ、もちろん。
この水槽で起こっている栄養のサイクルは、簡単に言えばこう。
エビがコケを食べて排泄物(汚れ)を出します。⇒その排泄物(汚れ)をバクテリアが分解します。⇒分解された栄養を水草は吸収して成長します。水を綺麗にする。
こんな感じです。
正確にはエビが食べるコケは水槽内にある栄養を元に育ったものなので、ソイルや肥料添加からの栄養なのですけど、これに人工餌投入による栄養が加わっても循環サイクルの理屈は同じです。
ちなみにこの3ヶ月で行ってるのは、水草の施肥と足し水。それと発酵式ですからその再セットも。
水換え不要でも足し水は絶対必要
言っておかなければならないのは、“水換えが要らない”といっても足し水は必ず必要です。
だって、水は蒸発しますから。
放っておけば飼育水は空っぽになってしまいます。
ただ足し水がポイントって訳じゃありません。水を補充するだけですね。
もう一つ、30cmキューブ水槽。
こちらは大体4ヶ月ほど足し水のみの水槽です。
生体はトランスルーセント・グラスキャット4匹とヤマトヌマエビ4匹。
水草はブリクサショートリーフ、エキノドルス・ベスビウス、クリプトコリネ・パルヴァ、ニューラージパールグラス、キューバパールグラス、ショートヘアーグラスなど。
繁殖したブリクサがかなり養分を吸ってくれるようで、濾過は外掛けフィルターのみでバランスが取れています。
そして、発酵式CO2を添加。
あ、濾過フィルターの細目スポンジは、約1〜2ヶ月周期で汚れたものを交換してますね。
GEXの外掛けフィルターなんですが、中身はEHEIMサブストラットプロと、上部フィルター用の細目交換マットをカットして入れてます。純正フィルターは不使用。
(写真の黒いプラ板は、ろ材とスポンジの仕切り用)
ろ材やフィルターについては、こちらの記事もどうぞ。
大事なのは追加する栄養素のバランス
期間中行っているのは肥料添加と足し水とCO2添加と言いましたが、この中で最も大事なのが肥料添加です。
ちなみに人工餌を与える場合は、肥料添加と人工餌の栄養素が重要ということ。
無換水といっても水草や生体は徐々に成長するのですから、吸収して消費したり蓄える(身になる)栄養素の追加は、絶対必要ですよね。
そして追加する栄養素(肥料や人工餌)のバランスや加減が最重要です。
ちょっとでもアクアリウムの経験がある方なら分かるはずですが、“富栄養化”なんて言葉が頻繁に語られるように、栄養素のバランスが崩れると、コケの増大や水質汚染の悪化、そして魚の病気や死、水草が枯れるなんて最悪の方向に進み出します。
ではどのように栄養素を調節するか。
それは水草が欲する栄養素の中でも水槽内で足りなくなっているものを与えることです。
つまり水換えの要らない水槽を作るには、水槽内全体の栄養バランスを水草が欲する加減に調整する。そうしなければ成り立ちません。もちろん魚の排泄物だって水草にとっては栄養供給源ですから、魚の数や人工餌の量もこのバランスに含まれますね。
そうです。今回の無換水水槽には植物の栄養吸収が大前提です。
そしてここで言ってることって結局、一般的な水草の育て方と同じことだったりします。
生体の出すアンモニアと排泄物が水を汚す
水槽水を汚す一番の原因は、生体が出すアンモニアや排泄物です。そしてそれらがバクテリアによって分解されて、硝酸塩やリン酸塩として蓄積します。
硝酸(窒素)やリンは全ての生命体になくてはならない栄養素ですから、蓄積すれば各種細菌はもちろん、コケの繁殖を促します。これが汚れですね。
そしてこの硝酸塩やリン酸塩を処理するのに、植物の力を使います。
水草が吸収してくれれば飼育水は綺麗なまま維持できますから。
硝酸塩を脱窒素(脱窒)する是非
生体が出す硝酸塩とリン酸塩の比率では、硝酸塩の割合が断然多くなります。そして多少なら無害でも硝酸塩濃度が上がり過ぎれば、コケの繁殖だけでなく生体の健康も害してしまいます。
そこで脱窒菌というバクテリアによって脱窒(脱窒素)を促す盧材が売られていたりします。
脱窒とは、窒素化合物である硝酸を窒素まで還元して空気中(水槽外)に放出する作用のこと。
脱窒ろ材では「ブルカミア」が有名ですね。
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超高機能性活性底床材 ブルカミアD 8Kg 弱酸性 ディスカス 熱帯魚 用品 ソイル 関東当日便
ブルカミアは、特殊な火山培土を原料に軟焼結製法(特許技術)で粒状化された底床用ソイル(ろ材)だそうです。実は使ったことないんですけれども。
このブルカミアでは脱窒菌が繁殖して、硝酸塩を減らしてくれるそうです。使用経験がないので実力のほどは分かりませんが、その脱窒効果で“水換えの要らないソイル”なんて言われています。
まあ確かに脱窒とリン酸の吸着効果があれば、水の汚れは解消できる理屈になりますね。
とはいえ、一般的なソイルでは脱窒が全く行われないかというと、そんなことはありません。
脱窒菌は通性嫌気性細菌ですから、酸素があれば普通に呼吸して、酸素がなくなると硝酸塩呼吸を行い硝酸イオンを窒素まで還元します。
排泄物や枯葉の分解された汚泥が底床ソイル内に溜まっていくと、酸素を消費するバクテリアによって嫌気状態になり、脱窒菌が優位に立ち始めます。
(ソイル下層に溜まった汚泥内で特に脱窒菌が活躍。30キューブ水槽。)
どんな底床材でも長期的に使っていると、少なからず脱窒は行われるようになります。そしてブルカミアはその作用を最大限に引き上げてくれるようです。
まあ今回の水草による無換水とブルカミアは手段の方向性が少し違いますけど、水を綺麗にする目的は同じ。なので、もしかしたらブルカミアを使った水草水槽であれば生体の排泄物をより多く解消できますから、入れられる生体数を増やせるかもしれません。試してないので想像ですけど。
ちなみに嫌気的な脱窒環境を自己流で狙って作ろうとすると、硫化水素のようなかなり有害な成分が発生する可能性も高いので、敢えておすすめはしません。硫化水素は魚やエビ、水草にも大きなダメージになります。いや、人間にだってかなり有害。
無理して脱窒を想定しなくても、水草がしっかり吸収してくれれば良いことですから。
発酵式CO2添加は脱窒に唯一おすすめ
脱窒環境を狙って作るのは危険と言いましたが、発酵式CO2添加は唯一、簡単に脱窒を促進してくれるのでおすすめです。
発酵式CO2では、水槽に二酸化炭素を送ると同時に気化したアルコール分も一緒に添加しています。このアルコールは好気性細菌の餌となり底床内の遊離酸素の消費を促して嫌気状態が進むこと、そして水素供与体(水素を与える成分)として脱窒を促進することから、脱窒菌が優位に立ちやすくなるんですね。
といっても気化した程度のアルコール分ですから、水槽環境を大きく変えてしまう怖さはありません。脱窒が起こりやすくなりますよ、程度ですからご安心を。
さらにCO2添加が光合成を助けて水草の吸収能力も高まるので、一石二鳥です。
発酵式について知りたい方はこちら。
まあ無換水水槽としては、普通にボンベ式の炭酸ガスでも良いんですけど、とにかくCO2添加することで無換水の環境バランスが取りやすくなるのは言うまでもありません。
水換えしない水草水槽に不可欠な栄養素
水換えしない水草水槽では水草に不可欠な栄養素として、生体の排泄物やアンモニアから硝酸・リン酸を、肥料添加でカリウムや微量元素を供給する必要があります。
水草栄養の基本的なことはこちらに詳しく書いています。ぜひご覧ください。
⇒「水草水槽に肥料を与えるやり方と考え方」こちら
ただしエビのみの水槽のように人工餌を与えない場合は窒素やリンが不足するので、窒素やリンも含む総合肥料によって与える必要があります。
私の30cm規格水槽でもカミハタ固形肥料「おこし」や「睡蓮用スティック」を使っています。
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この「おこし」は飴状コーティングで長期的に効く固形肥料。効果は抜群、だけどちょっと大きくて埋めづらい。
1粒の肥料効果が強いので、45cm規格水槽以上になると使い勝手が抜群に良いです。
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「カミハタスティック」も窒素・リン・カリ・微量元素全てを含み、ハサミでカットしたり折って小分けに使える扱いやすさ抜群。ただ「おこし」より保ちは悪い。
特に小型水槽におすすめ。私が一番愛用してる肥料。
無換水のコツはマグネシウムとカルシウム栄養!
無換水のコツは何と言っても水草の必須ミネラル、マグネシウムとカルシウムです。
実はこれ、水道水にそれなりに含まれているので微量元素に数えられていて、水草の施肥であまり意識されないミネラルなんですが、必要量は中程度と3大栄養素(窒素・リン・カリウム)に次いで多く必要な栄養素なんですね。
水硬度がカルシウムイオンとマグネシウムイオンの総量ということからも分かるように、水換えしていれば水道水からかなり補給できるため、総合肥料に含まれる割合もちょっと少なめ。なので、無換水の環境だと水草が吸収してどんどん枯渇していきます。
「水換えしないと水が悪くなる」なんてよく言われますが、しっかり循環させていれば水槽水が腐ることはありません。実際は腐るのではなくカルシウムやマグネシウムが足りなくなって水草の成長不良や生体の不調に繋がってるわけです。
生体の不調と言いましたが、カルシウムやマグネシウムは生体の生命維持にも大切なミネラルですから、甲殻類のエビや貝類はもちろん、魚だって硬度が下がり過ぎれば不調を来たします。
カルシウムやマグネシウムは硬度を上げるミネラルとしてアクアリウムでは嫌がられる事が多いんですけど、適度には存在しないと困るんですね。これもバランスです。
ちなみにマグネシウムとカルシウムの添加には苦土石灰液が最適です。
詳しくはこちらに書いてます。
生体数や餌の量は控えめに
次に、生体数と餌の量。
飼育水を最も汚すのは生体が出すアンモニアや排泄物ですから、生体数や餌の量は控えめにしないと水草が吸収しきれなくなります。
水草が吸収できる量は思ったほど多くありませんから。
餌のやり過ぎは厳禁。
最大でも1日1回、1〜2分で食べ切れる量を。生体数は一般的な基準よりもちょっと少なめくらいが管理しやすいでしょう。
水槽サイズに合わせた飼育数の基準については、こちらもご覧ください。
⇒「水槽サイズ別で飼える魚は何匹?その基準は?」こちら
餌やりのこと
魚って数日くらい餌やりしなくても全然大丈夫なんです。これは虐待でも何でもなくて、良い水槽環境には微生物とかちょっとのコケとか、魚が食べる物が結構あるんです。
(30規格水槽の底床を拡大、水ミミズやミジンコ類が発生してる。エビ水槽だと捕食者がいないので良く分かる。)
イワナや鮎が石に付いたコケを擦り食べるのは有名ですけど、雑食性の強い熱帯魚もコケを食べたりするんですね。もちろん魚種によって肉食性が強い種はコケを食べないですけど、そういう種ほど食べなくても腹持ちが良かったりします。
だから「餌やり忘れた!明日たくさん与えよう」とかしないように。水を汚すだけですから、忘れた次の日もいつも通りでいいんです。
ちなみに餌をたっぷり与えられるより少しハングリーな環境の方が精悍さが増して、魚本来の美しさが出たりします。まあ水槽環境をクリーンに保ちやすいから、健康体を維持しやすいのもありますけど。
もちろん餌はやらなくても良いって言ってるわけじゃありません。全く餌をあげないと魚は死んじゃいますから。
ただ食い溜めは出来ないから、やり忘れても余分に与えないようにってことです。
私も基本1日1回、1〜2分で食べ切る量を与えてます。餌やりは飼育する楽しみの一つですからね。
水草比率は多めに
水草の量も大事です。
生体が出す汚れを吸収する力は水草量に比例しますから、水槽内の水草比率は多いに越したことはありません。
もちろんアヌビアスナナやミクロソリウムなど陰性水草より、グロッソ・スティグマなど肥料喰いな前景草やよく育つロタラ類など陽性水草が豊富な水槽にすると、汚れの吸収具合は格段に高くなります。
もし窒素分(硝酸)が寂しくなっても固形肥料や尿素水でカバーできますから、無換水水槽では水草のボリュームを意識的に多くします。
硝酸が余剰するようでは生体の不調やコケが蔓延しないように水換えが必要になり、スムーズに無換水とはいきません。
尿素水についてはこちらをどうぞ。
⇒「水草の窒素不足に尿素水を自作する方法と使い方」こちら
光合成を促進する照明も
水草の成長に活発な光合成は欠かせません。
ですから照明も、それなりに水草育成能力のあるものが必要です。
まあこれはメタハラじゃなきゃ駄目とかじゃなく、それなりのもので大丈夫ですけどね。例えば30cm規格水槽ではコトブキ「フラットLED」を1台使ってます。
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(最新フラットLED SS。シルバーとブラックあります)
フラットLEDは水草育成用照明の入門機種といった感じですが、ハイタイプ水槽でなければ水草育成に十分有効な光量と波長バランスの良さがあります。
もちろん、照明性能が高ければより光合成を促進できますから、その分たくさん汚れを吸収できるわけで熱帯魚数に余裕ができる、もう数匹増やせるなんて調整もできますね。
ただし明る過ぎたら逆効果にもなります。
照明は、入れる水草に光量を合わせることも大切ですから。
照明選びについては、こちらをご覧ください。
⇒「水草水槽におすすめ照明は?LED照明の選び方」こちら
水換えの要らない水槽まとめ
ということで、水換えの要らない水槽について書いてみました。
これは私がこれまで管理してきた経験から分かった事を書いてますから、嘘偽りはありません。
でもね、“水換え不要”って聞くと凄い事のように思えますけど、実は狙って無換水になっていった訳じゃないんですね。
水草アクアリウムの環境を良くするために改善していったら、元気な生体に必要な環境は水草の状態が良好であるべきだと分かり、水草の栄養バランスを調整していったら、勝手に水換えしなくても大丈夫になっていった。
これ、美しい水草水槽を極めようとしていけば誰でも辿り着くところだと思うんです。たぶん、水草水槽に魅了された多くの先輩アクアリストが、同じように無換水を経験されてるんじゃないかと。
で、手間を減らして楽しようって水換えしなくなった訳じゃないから、水換えを否定することは全然なくて、むしろ美しいアクアリウムを維持するのに水換えが最善な選択肢になれば、さっと水換えするんですよ。
水換えは、栄養バランスの崩れた水、汚れた水を素早く簡単にリセットできる優れた方法ですから。
要は、水草や生体の調子が第一なんです。
水換えを減らした理由
「じゃあ何で水換えを減らしたの?」って思うかもしれません。
水草水槽を管理していると、だいたい水質は弱酸性のpH6.0〜6.5あたりに調整されてくと思います。だってそのくらいだと、多くの水草が容易に美しく育ってくれるから。
でも我が家の水道水pHは7以上の弱アルカリ性だから、pHを微妙に上げていっちゃう。ソイルのpH調整能力も水換えするほどに失われていきますよね。
(水道水pHは地域によって違いますが、多くの地域で弱アルカリに調整されてます。)
もちろんミネラル肥料によってもソイルのpH調整能は徐々に低下していくんですけど、それは水草に必要不可欠ですから仕方ないとして、水換えが少なくて済むならしない方向に自然と向かっていったわけです。
魚やヌマエビにとっても今の飼育水が良好なら、例え水換え程度の水質変化でも無い方がいい訳ですし。
ただ水槽水の汚れが酷い時は、多少のpH変化を気にするより水換えした方が、生体にも水草にも断然良いですよね。
だから水換えの要らない水槽には、生体数や餌、水草量、施肥具合といった全体の栄養バランスがとても大切なんです。
いくつかの残された問題もある
今回ご紹介した方法で、かなり長期間の無換水が可能です。
ですが、いくつか残された問題もあります。
足し水のカルキ抜き剤
足し水にカルキ抜き剤(塩素除去剤)を使いますが、主成分のチオ硫酸ナトリウムが残留塩素(次亜塩素酸や次亜塩素酸イオン)と反応して硫酸や塩酸、そして塩化ナトリウムが少しずつ発生、蓄積していくようです。
塩酸は揮発性だから勝手に無くなってしまうだろうし、硫酸も希硫酸とも言えないくらい希薄で、硫酸イオンとして水草に吸収されちゃうでしょうから、問題は塩化ナトリウム、つまり“食塩”です。
まあ足し水の量はたかがしれてますから、さらに微量の残留塩素と反応して出来る物質は考える必要のないほどごく微量ですけど、それでも排水しないわけで、少しずつ蓄積してくはずです。
水換えであれば排水のお陰で、濃度もごくごく微量のまま一定に保たれるのですけど。
水槽内で起こる正確な反応具合は分かりませんが、とにかくナトリウムイオンが増えていくのはあまり嬉しくないことですね。
淡水魚は浸透圧調整で多少ナトリウムイオンを取り込みますけど、水草に多すぎても良くはない。
って、考えたら水道水にだってナトリウムイオンは存在してました。長期間足し水だけなら、やはりナトリウムイオンの対処を考える必要がありそう。ぶっちゃけ水換えすれば良いんですけど(爆)
まあとりあえず、半年や一年くらいは全然大丈夫。もしかしたらソイルの寿命の方が早かったりして。
それに、残留塩素を濾過器通して事前に抜いちゃうって手段も。今は手頃な値段で塩素除去できる濾過器がありますしね。
ただ塩素は微量元素の一つだから、ほんのちょっとは必要です。
もし濾過器使う無換水の場合は、時々カルキ抜きした水道水使った方が良いのかも。ここで言う“塩素”は、残留する塩化ナトリウムの塩化物イオンの事ですね。
人工餌にも塩分は含まれますから絶対ではないですけど、枯渇する可能性もあるかもという話。
ちなみに、イオン交換能力がある濾過材やソイルも初期はナトリウムイオンを結構放出します。これはイオン交換にも優先順位があって、新品時はナトリウムイオンを抱えてるものが多いんですね。
だからフィルターろ材を入れ替えたら、数回は水換えするのがおすすめです。硝化バクテリアのバランスも崩れますから、アンモニアや亜硝酸がわずかに残る(検出される)可能性もありますし。
糞の蓄積は続く
水草が栄養を吸収するといっても、生体が排泄する有形の糞はバクテリアに分解された後も塵として底床内に少しずつ蓄積されます。いや、蓄積しやすい。
底床ろ材の空隙(すき間)は通水性を良くして好気性バクテリアの繁殖を促しますが、隙間が塵でどんどん埋まっていけば好気性バクテリアは減少し、代わりに嫌気性バクテリアが増えていって、有害な硫化水素を発生させる危険が高まります。
生物濾過に有用な加減で汚物量が維持できれば良いですけどね。
この無換水は生体数や餌の量を抑える水草水槽ですから、塵の蓄積はとてもゆっくりですけど、それでも月日が経てば徐々に問題化してくるかもしれません。
もちろん、目に見えて汚泥が増えてく状況では無換水のバランスは保てませんから、かなりゆっくりですけどね。
自然にソイルが崩れても目詰まりになりますし、それが無換水のリセット時期だと考えても良さそうな気もします。
水草のトリミングも必要ですね
水換えしない水槽でも、水草のトリミングは必要ですね。
水草の調子を落とさずに管理するんですから当然、どんどん成長していきます。
(後日、追記)
その後30センチ規格水槽も上記写真からさらに約4ヶ月経過して、この写真は7ヶ月ほど足し水のみ。
いくら照明を弱めに抑えて成長を遅く管理していても、もう結構なボリュームになってます。いや照明時間は1日12時間ですけれども。
アフリカンチェーンソード草原がブリクサと南米ウィローモスでほとんど隠れてますし、成長遅めのルドウィジアsp.スーパーレッドも水面に到達しちゃいました。。
各水草の状態は良いですけど、もうそろそろ放置の限界ですね。トリミングと株間引きの手入れが必要です。
ちなみに水草を減らす際はトリミング前から栄養を少しずつ抑えつつ、手入れして数週間は肥料の加減に気を付けてください。栄養の消費量がグッと減るので、コケが出やすいですから。
無換水のコツ一覧
ということで、水草や生体の環境を整えるのが大前提として、無換水のコツを一覧にしておきます。
- ソイルを使う
弱酸性pHを安定的に維持できて、水草にも最適ですから
- 生体は少なめに
特に餌を与える魚数は一般的な基準数より少なめが良好
- 水草は豊富に
水を浄化してくれる水草が主役
- 肥料添加を知る
多過ぎず少な過ぎず水草への最適な肥料添加を目指す
- 苦土石灰液が肝
カルシウム・マグネシウム栄養素を忘れない
- CO2添加
汚れの吸収力を上げてくれる。発酵式が無換水と相性良し
- 水換えは最高の手段
いざとなったら水換えすべし!
無理せず、いざとなったら水換えです。健康な生体や水草が一番美しいですから。
ちなみに無換水の水草水槽を美しく維持するには、ソイルが欠かせません。
理由はいくつもあるのですけど大まかに言うと、保肥力がある、弱酸性pHを維持してくれる、高いバクテリア環境、この3つ。
やっぱりほぼすべての植物には土が最適なんです。
「岩場に活着する水草だってあるでしょ」と思うかもしれませんが、そんな岩場にしがみ付いてる水草だって土の恩恵を受けてるんですよ。砂利の下層には必ず堆積した泥(土)があり、pHを軟水に傾けたり、水を綺麗にする多様なバクテリアの住みかとなったり。そんな土のお陰で出来た水質があるから岩場でも生きていける。
そして水槽という隔離された環境でも土(ソイル)があることで、水草に最適な水質を簡単に作ることができます。
まあ一番の問題は水道水のpHなんですけどね。ソイル以外だと水草に最適な弱酸性pHを作れない。
(地域によって水道水pHが既に最適って場合もありますけど、それはごく稀で多くは弱アルカリ性。)
あ、大磯砂やサンドでも排泄物からの硝酸値やリン酸値が上がってくればpHは下がりますよ。でもあれはソイルがなかった時代に多様な水草を育てる苦肉の策なんです。
過剰な硝酸やリン酸は結局のところ富栄養な汚れですから、そのpH降下を当てにしてたら、コケの生えない最高の栄養バランスなんて整うわけないですよね。硝酸やリンの加減は、pH降下のためじゃなく水草に必要十分な量だけに調整しないとです、コケに栄養がまわらないように。
つまり長期的にみてpHが下がっちゃうほどたくさん熱帯魚が泳いでたら、その時点で無換水は不可能ですから。
じゃあ最適数の魚と弱アルカリ性pHに耐性がある水草のみでって考えても、そういう水草の多くは成長の遅い陰性水草ですし、無換水のポイントである“水草の吸収力”は落ちてしまう。
そこで無理に帳尻合わそうとしてCO2をかなり高濃度に添加してpHを下げるとか、狭義で複雑な方向に向かっちゃいます。
だからソイルなんです。無換水でも好きな水草、育てたいですしね。
ちなみに全面ソイルじゃなくて部分的に使うだけでも大丈夫。当然それなりの量ある方が良いですけど。
バランスドアクアリウムへの応用
この無換水の考え方は、バランスドアクアリウムにも応用できます。
例えば、肥料やCO2添加を無くすので、栄養分が少なくても生きていける陰性水草やモス類を選択、水の汚れを吸収する力も少なくなるので生体数はより少なく、照明も無くすなら直射日光の当たらない明るい場所に設置、濾過フィルター無くすならソイルを厚めにしたり生体をさらに限定する、という感じです。
バランスドアクアリウムの本当の意味って、器具や装置を使わず人為的な手入れも全くしない水槽ですから、その水槽内で完全な栄養の循環を作る必要があります。
魚に餌も与えないってことですから。
底床内の有機物やミネラルで微生物が湧き、その微生物を魚が食べて排泄、排泄物をバクテリアが分解して、水草が養分として吸収、そして光合成を行い酸素を供給する。
まあ実際はちょっと無理なところもあって、植物や魚が摂取した栄養を使って身(体の一部)になった分、水槽内の使える栄養(循環する栄養)は減ってしまうので、次の成長が滞ってしまう。
そのため餌を与えるなど、外部からの栄養素を少しずつ増やさないと水槽環境が回っていかないのですよね。水槽内すべての栄養量は一定なのですから。
それをクリアするには、アナカリスのような魚が食べる水草を初めに豊富に入れておいて、水草が保持する栄養素を少しずつ魚に移行させるような環境とかでしょうね。
水槽なんかよりもっと大きな環境で考えた場合は、植物や動物(魚)が死ぬことで、そこから栄養がまた循環し出すのですけど。
だからバランスドアクアリウムと言っていても、照明は使ったり餌を与える人も多いですね。
また、夏の高温や冬の低温など水温の管理も、ヒーターや冷却ファンを使わないと難しいところもありますし。
そしてバランスドアクアリウムも、やはり足し水は必要ですね。
参考リンク
私の水換えしない水槽環境で使用してる、まだ紹介してないものです。
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30cmキューブに使ってる照明はアクロ「OVAL LEDブライト」。
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30キューブ水槽の外掛けフィルターにGEX「らくらくパワーフィルターM」を使用。
安いので濾過槽の中身を変えて使ったり、使い勝手良し。まあでも外掛けフィルターですから濾過性能はほどほどです。
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私のGEXフィルターに使ってる定番の濾過材EHEIM「サブストラットプロ・レギュラー」。
バクテリアの定着・繁殖能力も高く、愛用するユーザーの多い人気商品です。
初期は若干pHを上げますが、ソイル水槽はもちろん無冠水水槽もpHは下がりやすいので、全く問題なし。
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固形肥テトラ「イニシャルスティック」は、窒素もちょっと含むようですけど基本カリウムと微量元素の総合肥料。
初期ベース肥料として、また熱帯魚数も十分な人工餌を与える水槽に最適。主に30キューブで使ってます。
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ただ少なめに窒素・リンも含まれているので水草を育てやすく、ミネラルバランス抜群です。主に30キューブで。
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30キューブのソイルはGEX「ピュアソイルブラック」。吸着系で栄養素があまり含まれないため、魚もエビもすぐに入れられてしかもコケにくいですけど、肥料添加は早めに必要です。
ソイルが硬めで崩れにくいから、長期使用に最適。
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30cm規格水槽のソイルはGEX「水草一番サンド」。熔リンやカリウムを豊富に含むので溶出分が多く、初期は換水が必須です。
水草具合にもよりますが、数ヶ月くらいして栄養が落ちてきたら施肥は必要ですが、その後も残ってる微量元素などのお陰で育てやすい。
こちらも硬めで形状が長持ちします。GEXって硬めで扱いやすいですね。
水草関連記事
⇒「水換えで水草の調子が上がる理由を考察」こちら
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